「住宅建築」No.476(建築資料研究社発行)に掲載された「青梅の家」の記事の一部を御覧いただけます。

特集 「住まいを繕う」

「惺々舎」掲載記事「住宅建築」 No.476


自然と幸せに共生する大正期の住まいをかつての姿に
「青梅の家」東京都青梅市
改修設計・施工=惺々舎/深田真

 この家は大正時代に鉄道会社の社宅として建てられました。昭和に入ってから御施主様のお祖父様が購入され、亡くなるまでこの家で過ごされました。その後長らく空家の状態が続いたため、私がこの家を訪ねた時は、数カ所の床が抜け、家も少し傾いた状態でした。御施主様からは、それを住めるように修復して欲しいと御依頼がありました。

 私の生まれた育った家も、この青梅の家と同時期に建てられたとても似た造りの木造平屋の日本家屋でした。私はこれまで様々な家で暮らしましたが、生まれたその家が一番記憶に残る大好きな家でしたので、初めて訪れた時にその家の懐かしい空気感が思い出され嬉しくなりました。

「惺々舎」掲載記事「住宅建築」 No.476

 

 第二次大戦以前の日本家屋には、間取り・構造・意匠に於いて、ひとつの「型」と呼ばれるような定式がありました。
 農家建築がそうであるように、地域独自の特長はあるものの、都市部の町家にも共通する「型」があり、その「型」に倣って家々は作られていました。その頃まで、日本はどこも同じ「型」に倣った家が建ち並ぶ時代でした。

 家にはその家を建てる人の内的世界が自ずから表現されます。家を見ればそこに暮らす人の心の深層を知ることが出来ます。私はかつての日本家屋の「型」の背景にある、古人の豊かな精神性にとても魅力を感じます。

 かつて私たちは身近な木と土と石と草・自然の素材たちをとても丁寧に扱い、沢山の手間を掛けて家を建てて来ました。それらの自然素材たちは、自然から人間に対して無償で提供された宝物です。人間の暮らしを楽で便利で快適な生活するために、木や土や石が望まないやり方で、宝物を単なる人間の道具として利用することはしませんでした。

 人間は自然の中から生まれ、自然から無償の恩恵を受けながら日々生かされていることを知り、手間を惜しまず、自らの身体を使ってものを作り、暮らしを営み、節度を持って生きることを旨とする、そんな時代がかつてありました。
 その時代の日本家屋は、周囲の生きとし生けるものたちと共に生きるために作られていました。
 家の中を、季節の風が草木の香りを運び吹き抜けます。人は燃える火に暖められ、土の温もりに触れ、小川の水や、湧き出る泉の水に洗われることを喜び、鳥の声・虫の声に耳を澄まします。糞便は田畑に還され、人は生き物たちの死によって生かされ、命の循環の中に存在することを実感します。夜の闇を怖れ、月の光の中で踊ることを楽しみます。大地や生き物たちが喜び、その喜びの中で生きることこそが人の真の幸福であるという摂理を共有していました。
 そのようなかつての日本人の内的世界がこの家の「型」、この佇まいに投影されています。

 戦後私たちは便利で快適な暮らしを求め、モノに溢れた持続可能性の欠落した社会を作り上げました。おそらくそう遠くない未来、一昔前の日本人の内的世界や古人が作り上げたもの作りの「型」の価値を、見直さざるを得ない時代が来ることでしょう。

 御施主様からの御要望は、便利で快適な家にリフォームして欲しいという御要望ではなく、かつてこの家があった只そのままに修復して欲しいという御要望でしたので、私も喜んでこの家を元の姿のままに修復しました。

 床が腐食した古い日本家屋を修復することは、それほど難しいことではありません。根元が腐食した柱は、ジャッキアップして一本一本根継ぎし、床高を揃えます。そして、土壁を塗り直し、足固め・根太・荒床板・畳寄せを新しくするだけで事足ります。土壁はお施主様自らが塗り直し、木工事は大工一人でおよそ三ヶ月半の作業でした。

 かつての「型」はそのままに、この家は近未来の住宅のひな型のひとつとして再び命が与えられました。
 
 深田 真

「惺々舎」掲載記事「住宅建築」 No.476

「惺々舎」掲載記事「住宅建築」 No.476

 

(資料)
●建物名─青梅の家
所在───東京都青梅市
家族構成─夫婦
●設計──惺々舎(深田真)
● 施工──惺々舎(深田真)
大工棟梁/深田真
竣工───2003年7月
構造規模─木造平屋建て
●面積
敷地面積─462.0㎡
建築面積─89.24㎡
延床面積─84.28㎡
●主な外部仕上げ
屋根───既存瓦棒葺き
壁────竹小舞下地土壁
建具───既存建具美装
●主な内部仕上げ
天井───既存竿縁天井
壁──── 土壁中塗仕上げ           
床────畳・サワラ本実板(厚38mm)

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「惺々舎」掲載記事「住宅建築」 No.476