「住宅建築」No.430/2011年12月号(建築資料研究社発行)に掲載された「鴨川の家」の記事の一部を御覧いただけます。

特集 木造住宅の〈意匠・性能・技法〉

三澤文子・私が推薦した理由
 学生はインターネットを使い、目を皿のようにしてHPから自分の気にいった造り手を探し出してくる。深田真さんを知ったのも、ある学生が「このかたのところで勉強したい」とHPのコピーを持ってきたからだった。HPから、設計事務所ではなく設計施工の工務店であることがわかったが、東北の風景を背景にした加工場の写真や取り組んだ仕事を画面上で見て、こんなにすごい人がいるんだなあと、じっと見入ってしまったのだった。設計から大工工事まで全てをほとんど一人で行ってしまうという、じっくりゆっくりとした造りかたを貫いている姿勢。こだわりのある大工技術から造り出される木造住宅の原型のような空間は懐かしい何かを思い出させる。

「鴨川の家」千葉県鴨川市
設計・施工=惺々舎(深田真工房)

 古い昔の家が好き。昔の暮らし方が好き。そんな思いを共有して、建主さんとこの家を造りました。特別なことは何もしませんでした。長い年月を掛けて培われた、先人の叡智の結晶である木組みの柔構造。昔ながらの仕口と継手。差鴨居、足固め、及び貫構造。竹小舞に土壁。三和土の土間。燻瓦。御影石の礎石に石場建て。木材は杉、桧、赤松、栗。棟梁が計画全体を構想し、設計し、自らの手で木を刻み、諸職と共にひとつの建築をまとめ上げること。作法を守り、やるべきことを心を込めて丁寧に積み重ねること。この家は、かつて行われていた当たり前の日本家屋の造り方によって建てられました。
 伝統構法の優れているところは、丈夫で長持ち、そして自然素材の中で健康に暮らせること。ただ、日々ものを造りながら思うことは少し違います。かつての日本家屋は、丈夫で長持ちして、人が健康に暮らすことを目的として作られた家なのだろうか。いいえ、そうではないと私は思います。おそらくかつてのもの造りは、木や土や石が気持ち良いと思えるように、大地や森や川や生き物たちが気持ちよいと思えるように、そんな風に身の回りのありように思いを寄せながらものを造り出していたように思うのです。そうして、ひとつひとつ人の手によって新しい大切な命が生み出されていました。
 もしかしたら、人間が人間のためだけに家を造るようになったのは、極最近のことなのかも知れません、早く安く造られる便利で快適な家。人間が人間を喜ばすめだけに建てられる家。それが現代の当たり前の家造り。
 人間の利を求め、人間が人間のためだけに作った究極のものは原子力発電所かも知れません。人間だけのために造られたものは、人間を含めて何ものをも幸福にすることはない、という当たり前の摂理を。2011年の春、私達はとてつもなく重い犠牲を払って学ぶこととなりました。
(深田真)

伝統構法についての考え方と手法

 伝統構法とは、素材である「木」の立場に寄り添った構法です。よって、自ずから「木」の長所と特性が最大限発揮される柔構造が構成されることとなります。これは、木構造全体を複雑に絡み合わせ、応力を分散し、全体で受け入れる構造ですから、構造の設計に当たっては分析的に解析することよりも寧ろ、まるごと全体を把握し俯瞰する視座と想像力、実感覚が重要です。
 構造の要は、「差鴨居」と「足固め」、「通し貫」であり、横架材相互の仕口は原則として「相欠き渡り顎」を用います。壁は竹小舞を下地とした土壁。そして、木構造は基礎に緊結せず、外力に対しては木構造だけで自律した振る舞いをするように構築することが前提です。木材の断面寸法は、負担する力の大きさと方向、役割によって過不足のない寸法のものが選択されます。柱は四寸角から七寸角まで四種、差鴨居は三種、足固めは二種、横架材は丸太梁を除いても四種類の断面寸法のものを使用しますので、それらを組み合わせる仕口のほとんどは異なる寸法となり、墨付けは複雑なものとなります。
 通常の住宅規模の建前では、構造材のすべてを二日間程度で一気に組み上げます。材を貫通し、絡み合う多くの部材を滞りなく精密に組み上げるためには、「刻み」の段階で建前の手順をシミュレーションしながら十分検討を重ねた上で、仕口の選定、形状と寸法の決定が行われます(図面参照)。また、ほとんどの構造材は完成後も隠れることのない「現わし」となるため、「刻み」段階から、構造だけでなく仕上がりまでを想定した繊細な配慮と精度の高さ、丁寧な扱いが要求され、建前までに大工の重要な仕事のほぼすべてが行われることになります。
 伝統構法とは、規格化して効率的に大量生産し、経済性を追求する、現代の「人間中心の建築生産システム」とはまったく逆の原理によって成り立っています。手間が掛かる生産システムではありますが、そのプロセスそのものが建築に生命力を付与する上で大切なものであり、木に寄り添い、尊重し、あくまでも木を大切に使わせていただく、という立場に立った「自然と人間の関係が幸福に持続するための技術体系」といえるでしょう、よって、伝統構法においては設計と施工を分離することなく、かつてそうであったように、日々木に触れ、木から謙虚に学び、構造全体を身体感覚に照らしてまるごと掴む能力を持った棟梁が設計を行うべきであり、そして、自然の摂理に添ったその設計思想そのままに自ら心を込めた施工を行うことによって、優れた美しい木造建築を生み出すことができるのです。(深田真)


 深田真工房の深田真さんは、もともと茶の湯指物師のもとで修業を積んだ経験を持つ。独立当初は、指物を手がけていたが、友人宅の家づくりを機に、大工として住宅を造るようになったという。現在工房は、深田さんと、見習いが一人。住宅の設計、材木の刻み、木工事までの全てを深田さんがこなす。棟上げ時には大工仲間の応援を呼んで、一気に立ち上げるが、そのあとは、現場に住み込み造り上げていく。木製建具や浴槽まで造ることもある。図面は前頁に掲載した軸組のアクソメに、継手・仕口のポイントを描き込んだものが基本になる。(編集部)

■おもな工法の指針・ポイント
木架構:伝統構法
よく使う樹種:杉、桧、赤松、栗
架構の特徴:伝統構法による柔構造(伝統的な木組み、差鴨居、足固め、貫構造、及び土壁等で構成する)
基礎の考え方:丁寧な地形を行った上で、木構造と基礎は緊結しない
よく使う断熱材:土壁及び無垢の厚板を用い、新建材は使用しない

■つながりのある林産地———埼玉、岩手、栃木

■良く使用する製品
構造金物:使用しない
仕上げ材:無垢の木材(構造自体が仕上げ材となる)。土壁は中塗仕上・土佐漆喰等
家具:自工房で製作
パッシブシステム:製品としてのシステムは使用しない

■いま、注目している業界内の動き
特にありません

■木造住宅で重要視していること
自然の摂理に添った家作りを行っています。それを大切にすることによって、丈夫で長持ちし、かつ品良く生命力のある建築が生まれます。

■デザインで重視していること
造形の主体は自然素材にあります。自然素材を生かした構造の内発的必然性によって、全体が調和した美しい形が定まります。

■性能で重視していること
人間が気持ちよく暮らすことが出来る家であることと共に、周囲の自然環境も喜ぶものを作ることが大切だと思っています。

■木造を学ぶ場所
古い日本家屋から学びます。古建築の解体現場からは多くのことを学ぶことが出来ます。

この記事の「鴨川の家」の建築作品写真はこちらのworksページで御覧いただけます。