「シュタイナー学校の家作りの授業」と「通過儀礼」(6)


通過儀礼の要素を取り入れた「家づくりの授業」の試み

 私は通過儀礼という伝承社会の知恵の奥深さに気づきそれを学ぶ中で、二回目の「家作りの授業」の時には通過儀礼の要素を取り入れた授業を試みたいと思いました。幸い担任の先生にも賛同していただき、いくつかの新たな試みを盛り込んだ授業を行うことができました。
 その時の授業の内容を少し詳しくご紹介させていただこうと思います。
 授業は2001年の秋に、十日間かけて行いました。

 

 私から見ると三年生の子供達はまだまだ幼くて、幼児にちょっと毛が生えたという感じです。
 授業は毎日、歌とお祈りから始まります。先生が作ってくださった「家づくりの歌」も元気良く唱えます。

地面をしっかり踏み固め
太い柱をぐんと立て
私達は家を作る

山の木々の声を聞き
多くの知恵に助けられ
私達は家を作る

大地を揺さぶる地震にも
大木へし折る大風にも
負けることない丈夫な家を

私達は家を作る
未来を支える丈夫な家を

一日目の最初の時間に、子供達に大切なことを伝えました。

わたし「これからみんなで作る家はね。神様の家です」
子供達「えー、神様の家?」「神様の家なの!?」
わたし「みんなにとって神様って何かな」
子供達「僕たちを守ってくれるもの!」
わたし「うん。だからふざけて作っちゃいけないんだよ。いいかい。これからみんなで作る家は、本物の家   です。本物の道具を使って、本物の材料を使って、本物の作り方で作ります。大人が作る家と同じ、本物の  家です。だから、大人と同じ気持ちになって作ってください」

 通過儀礼で作られる小屋の多くは、最後に火を放って焼き払われ、「カミの世界」に捧げることで子供達は「死」を体験します。
 しかし、都内の住宅地で行ったこの授業では、家を焼くことは出来ません。だからといって子供達が作る家を、物置小屋のような物質的に役立てることを目的としたものにはしたくありませんでした。
 授業を子供達のための通過儀礼として捉えるならば、物質的社会的目的のためにものを作るのではなく、「神様」という心の中の存在、つまり子供の心の中にこそ、その行為の目的を定めることが大切だと思いました。
 それから毎朝授業が始まる時には、みんなで輪になって手を繋ぎ、しばらくのあいだ目を閉じて心を落ち着けすばらしい神様の家が出来るようにお祈りしてから作業を始めました。

 一日目はまず地鎮祭から始まりました。近所の神主さんにお願いしておこなった本物の地鎮祭です。子供達にはまず最初の時間にひとつの儀式を通して、いつもの学校の授業とは違う特別な時間が始まるのだということを感じ取って欲しいと思いました。

 作業は、家を建てる場所を決める「縄張り」から始めます。
 この時の家作りの授業は、いつも授業をおこなっいる校舎とは別の、他の学年の教室として借りている一軒家の敷地の中で行いました。授業の期間中だけ教室を交換してもらい、一軒家とその敷地を自由に使わせてもらいました。家作りの授業はなるべく日常と離れた特別な空間で行いたかったので、他の学年の平常の授業と空間を分けて行えたことはとても良かったと思います。
 家づくりは、木が茂る敷地の中に、家が上手く収まるように「縄張り」をしました。「尺貫法」という家を作る単位で子供達に縄を張ってもらいます。
 次に「遣り方」を行います。縄張りで決めた場所に家が収まるように、今度は正確に糸を張って、基礎石を据える位置を決めて行きます。
 そして、決めた場所に穴を掘り、石を敷き詰め、タコという道具を使って地面を突き固めて、その上に基礎石を据えて行きます。
 凸凹の地面に据えられた基礎石の、それぞれの高さの差を「水盛り台」を使って測ります。「水盛り台」は六尺程の長さの細長い升のようなもので、そこに水を満たして水平を取るための道具です。長い水盛り台を水平に保つことは難しくて、水があっちへこぼれ、こっちへこぼれ、子供達は大騒ぎしながらこの作業を進めます。
 二日目の午後からはノコギリを使った材木の「刻み」作業です。「曲尺」という物差しを使って、長さを測り、柱に「墨付け」をして切っていきます。自分の体の正面にノコギリを見据えて、ゆっくり大きく動かして切っていくことを教えます。とにかく早く切ろうとして、どんどん曲がって切ってしまうような子には、体の構えを直してやり、手を添えてゆっくりした呼吸で動かすように教えます。
 だんだんと木組みの複雑なほぞ組みも切らせますが、刻み作業が終わる頃には、みんなとても上手にノコギリを扱うようになります。
 ノミを使った穴掘りは、三年生ではまだ無理なので私が行いました。

 四日目の午前中、カンナで面取りをしたら、刻み作業も終わりいよいよ「建前」です。
 「建前」は「棟上げ」とも言って、家づくり作業のクライマックスです。大人の大工が行う建前でも、その時ばかりはある種特別な雰囲気が漂います。
 柱や梁の材木には、「いの一」「ろの二」というように、一本一本「番付」という記号が振ってあり、どこにどの材料が来るのかが分かるようになっています。子供達に、どこから組み立てていくのか、番付で指示をして、用意した柱や梁を「カケヤ」という大きい木づちで思い切り叩きながら木組みを組んでいきます。柱を立て、足固めや貫を差し、梁と桁を乗せて、屋根の小屋組まで組み上げていきます。大人はあまり手を出さずに、子供だけで重たい材木も小屋組の上まで持ち上げます。「セーノッ!」「ソレーッ!、ソレーッ!」みんなで声を合わせ、息を合わせてカケヤを振り下ろし、「カーン、カーン」というカケヤの響く音と共に木組みが組まれていきます。
 木組みの知恵の中には、数千年数万年のあいだ木と共に生きて来た私達の先人の知恵が詰まっています。木を組んで行くこの作業自体がひとつのお祭りです。
 いよいよ作業も最高潮に達し、家のてっぺんの棟木を収めれば棟上げの完成です。最後は子供達みんなが小屋組の上に上がって一緒に棟木を叩きます。「ソレーッ!、ヤレーッ!」木がへこむほどみんなで思い切り叩いてやっと棟木が収まりました。「ヤッターッ!」「オーッ!!」子供達は高い小屋組の上に立ち上がって大喜びです。「スゴーイ!!」。特に男の子たちは大興奮。ある男の子は、こぶしを握りしめ、空を見上げて言いました。「あぁ、こんなことが起こるなんて!」

シュタイナー学校の家作りの授業

 そして、上棟式を行います。家の木組みに、幣束を飾り、酒、塩、米、お団子をお供えして、祝詞を上げ、その後は直合です。みんなで甘酒で乾杯をして、紅白のお団子を食べました。
 五日目と六日目は屋根工事。屋根を支える垂木、そして野地板、屋根板を釘で打っていきます。釘を玄翁で打つときは、重さをうまく使って大きく振り下ろすように教えます。屋根板には柿渋を塗りました。屋根ができあがった日のお弁当はみんなで屋根の上で食べました。
 七日目の午前中に床板を張って、午後からは壁の下地となる小舞掻きです。子供達は小舞を掻くのが上手です。小さい手で棕櫚縄を竹に上手にくぐらせながら細かく編んでいきます。しっかりした小舞ができあがり、家全体が籠になったようなとても美しい状態です。

 八日目は土壁を塗っていきます。 土壁の土は半年程かけて準備しておきました。その年の五月に、子供達と一緒に、粘土と藁スサを水で練って、壁土を寝かしたおきました。寝かしておいた間に、藁が腐り、バクテリアが湧いてとても良い粘り気が出てきます。そこに更に新しい藁を足して、もう一度足で練り直します。この時には、藁が醗酵したとても強い臭いがしました。子供達は「クサーイ!」とか「いい匂い!」とか言いながら、それでも鏝を使って上手に土壁を塗っていきます。
 この家作りの授業では、九日目の晩、つまり家の完成祝いの前の日に「おこもり」をすることにしました。「おこもり」を明日に控えたこの日、子供達に「おこもり」について話をしました。先に述べました「冬ごもり」の話などの後に、「夜」について子供達と話してみました。

わたし「明日のおこもりは、この教室でみんなで夜を過ごすんだよ。夜はみんなにとってどんなものかな」
子供達「夜は夢を見る」
わたし「うーん。夢か・・・・・。ねぇ、夢って不思議だと思わない?夢の中の世界は、目で見てるのかな。目で見てるんじゃないよね。手でも触れない世界だよ。でも、みんなはそこで何かを体験しているんだよね。不思議だねぇ」
子供達「うん。フシギーッ!」
わたし「夜は不思議なことが起こる特別な時間なんだ。完成祝いの前の夜は、みんなでここに泊まって特別な時間を過ごすんだよ」

 九日目は、昨日塗った土壁の裏側から土を塗って、土壁の出来上がり。壁が出来たら、最後に窓とドアを作って、いよいよ家の完成です。
 夕方から子供達と夕食の準備をします。メニューは煮込みうどん。
 野菜を切る班と、かまどを作る班に分かれます。完成した家の前にかまどを作って火を焚きます。夕食の準備が出来たのが、もう夜七時頃。あたりは暗くなっています。ほとんど闇鍋のような状態で、暖かいうどんをすすります。みんなよく働いたのですごい食欲です。何杯も何杯もお代わりをします。
 やっとみんなのお腹が落ち着いた頃に、火を囲んで大事な話し合いをしました。「神様の家」に名前を付ける話し合いです。新しい「家」が生まれたので、子供達が名付け親になります。エンデの「はてしない物語」では、バスチアンがおさなごころの君に「モンデンキント(月の子)」という新しい名を与えることでファンタージェンの危機を救いました。子供達は、自分達の作った新しい命にどんな名を与えるのでしょう。
 子供達からは、すばらしい名前のアイデアが沢山出ました。つくづく子供達って詩人だなぁ、と思います。あまり良いアイデアが沢山出過ぎてなかなか決まりません。ひとつのアイデアに決まろうとすると、それに納得できない子供たちが、話を振り出しに戻してしまいます。何度も何度もそんなことを繰り返しているので夜はどんどん更けていきます。そして最後は決選投票。目をつぶって挙手してもらいます。「いいかい。どんな名前に決まっても、その名前を祝福してあげようね」
 みんなが納得するまで、時間をたっぷりかけて決めた神様の家の名前は「あまのしずく」というものでした。天からの命の雫を思わせる、神様の家にふさわしいすばらしい名前に決まりました。
(文・深田 真)

「シュタイナー学校の家作りの授業」と「通過儀礼」(7)へつづく

シュタイナー学校の家作りの授業
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